社会福祉法人 鉄道身障者福祉協会

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第3回 鉄道150年記念障害福祉賞

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鉄道150年記念障害福祉賞

■第一位

「盲ろう者とパラリンピック」

田畑 快仁

 パラリンピックが掲げる四つの価値「勇気・強い意志・インスピレーション・公平」は、盲ろう者である私自身の生き方や願いと深く重なっている。私は先天的に視覚と聴覚の両方に障害のある盲ろう者で、コミュニケーション方法は触手話だ。視聴覚の代わりに触覚や想像力を使って世界を感じている。趣味はマラソンとタンデム自転車。中学・高校生の時には六年間卓球部に所属していた。友達と同じ方法では難しいが、工夫と努力で私なりにスポーツを楽しんできた。
 ろう者のアスリートが手話で解説するテレビ番組からパラリンピックのことを知り、興味をもつようになった。ろう者にはデフリンピックという大会がある。今年は初めて日本で開催され、世界中から様々な手話を使うアスリートや観客が日本に集まる。手話は私にとって大切な言語だ。デフリンピックに出場できば良いが、伴走者と共に走ることやタンデム自転車での出場が認められていないため、視覚にも障害のある私は出場できない。しかし、パラリンピックであれば盲ろう者も出場できる。マラソンの時には手話ができる伴走者と共に走り、「スタートまで3秒」「あと少しでゴール」など触手話や身体の動きで状況を伝えてもらう。タンデム自転車では、前に晴眼者が後ろに盲ろう者が乗り、触れる合図を共有して走る。例えば、右折は右手、左折は左手に触れて、止まるときには手をしっかり叩くなど、すべて触れるコミュニケーションしながら疾走する。
 盲ろう者には移動・コミュニケーション・情報摂取という三つの困難がある。希少障害であることに加え、孤立しやすい困難があるため、殆どの人々が盲ろう者の存在を知らない。白杖を使い街を歩いていると、知らない人から声を掛けられるが、私には聞こえない。盲ろう者であることを伝えるのが難しい。パラリンピックに盲ろう者が出場すれば、盲ろうの存在や触覚を使ったコミュニケーションなど盲ろう者の文化を人々に発信する機会になるのではないか。パラリンピックの目的は、障害のあるアスリートが活躍する場であると共に、多様性を認め合うことだ。そこには盲ろう者も含まれていると考えると夢と希望が湧きあがる。
 パラリンピックに出場するには、練習を重ね成果を出さなければならない。盲ろう者がスポーツをするには、盲ろう通訳介助員による練習会場までの移動支援、スポーツ競技のスキルを要する支援者から伴走など支援を受けなければならない。練習時にはもとより、出場するときにも盲ろう者ならではの支援を要する。東京パラリンピックでは、米国出身の盲ろうの水泳選手ベッカ・メイヤーズさんが介助者の帯同を認められず、出場を辞退した。新型コロナウィルス蔓延という特別な事情があったことは理解できるが、メダリストでもある彼女が盲ろう者にとっては必要な配慮を受けられないことを理由に、出場を辞退することは苦しさの極みだっただろう。盲ろう者がスポーツをすること、大会に出場するには幾重もの困難があるが、諦めずにスポーツをする楽しさを味わい続けたい。そして、いつかパラリンピックに出場することを夢見ている。テレビでパラリンピックの解説をしていた自転車競技のデフリンピックアスリートは私の恩師だ。私がタンデム自転車でパラリンピックに出場するときはパイロットを務めると言ってくださった。私の頑張りが、これまで支えてくれた人々への恩返しになる。 また、パラリンピックは選手だけのものではない。応援する観客や家族など多くの人々にとっても大切な大会だ。障害に対する見方や考え方、人に対する価値観など、人々の心を揺さぶる魅力がパラリンピックにはある。 現在、私は大学院で「触覚サインシステム」の研究をしながら、触覚デザイナーとしても活動している。触覚を通じて、新たな世界を拓いていきたいと考えている。スポーツの分野にも触覚を用いた工夫や配慮があれば、よりユニバーサルになるのではないか。盲ろう者が培ってきた触覚の文化がパラリンピックに取り入れられたら、どれほど素晴らしいかと想像する。多様な障害種の人々が競い合い、自分の限界を越えようと挑戦する場に私も何らかの形で関わりたい。
パラリンピックは「出来ないこと」を嘆くのではなく、「できることを」最大限に活かす場だ。それは、私たち障害者にとって未来への希望を体現する場とも言える。競うだけではなく、人とのつながりに手ごたえを感じ合える祭典でもある。パラリンピックのアスリートから、「あきらめない心」を教えられた。支援を受けることの多い私だが、誰かの「伴走者」になりたい。仲間の存在に人々が手ごたえを感じられるようなプロダクトデザインや場創りを実装したい。パラリンピックを通して、私の挑戦について考えるようになった。盲ろう者として生まれたからこそ得られた感覚を大切にして、これからも走り続けたい。
   



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