社会福祉法人 鉄道身障者福祉協会

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第2回 鉄道150年記念障害福祉賞

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鉄道150年記念障害福祉賞

■第一位

支えられながらも支える

杉本 あずさ

 十代から二十代の頃の私は、若く元気だった。今思えば、守るべき人もなく、身軽な生活だった。
 当時、親から、あるいは学校の授業などで、人と人との支えあいは大切なことだと教えられていた。純粋で世間知らずだった私は、本当にそうだなと思い、人を支える方になりたいと思った。大人の仲間入りをしていく得意げな気持ちもあり、積極的に誰かのお手伝いをようとした。電車では、高齢者や障害のある方に席を譲った。また、直接的にできることが見当たらない時には、できるだけの募金をしてみた。
 その後、私のところに生まれてきてくれた長男には、ダウン症がある。医療や福祉や教育や、多岐にわたる分野でサポートを必要としてきた。そして、それらを有難く享受して、長男は毎日楽しそうに暮らしている。
 でも、支えてもらっているのは長男だけではない。例えば、3年程前に、長男が電車に乗って遠出をしたいと言った時があった。その時、私は次男を妊娠中で、私の父にも付いてきてもらった。そんな三人の小旅行で、優先席を見かけてふと気が付いた。障害がある子供の長男、妊娠中の私、そして高齢者の父。なんと、全員が優先席の対象だったのだ。人は簡単に、気が付いた時には、社会的弱者になることがあるのだなと痛感した。そして、見た目にもわかりやすかったのか、さっと優先席を譲ってくれた方々がいて、遠慮なく使わせてもらって嬉しかった。
 その後も、似たような状況が続いた。生まれてきた次男は、当初は発育が悪く、ずいぶんと手がかかる赤ちゃんだった。そのせいもあってか、私は産後うつになってしまった。そんな私たちの家庭には、様々な機関が相談に乗ってくれた。そして色々な助成制度を使わせてもらい、ヘルパーさんやシッターさんが、我が家を助けに来てくれるようになった。おかげで次男は無事に育ち、私も元気を取り戻し、長男は甲斐甲斐しく弟の世話を焼いている。

 少子・高齢化がますます進む中で、人と人との支えあいは、今までのように「できる人がやる」のでは、もう足りなくなってくるのではないかと思う。その代わりに、多くの人が社会的弱者の立場を経験することにより、支えあいはより上手になっていくのではないかなとも思う。
 私も、長男を抱え、自分が精神障害をもち、次男の面倒を見る中で、自分と同じような立場にある人が必要とする支えを、実感できるようになったと思う。障害のある子の援助は、道で笑顔を向けてくれるだけでも、とても助かるのだ。うつの時には、頭も体も働かなさ過ぎて、レジで支払いも上手くできずお金を落としてしまった。そんな時に、店員さんも列の後ろの人も、少し待ってくれるととても助かる。実際には、待つだけでなくお金を拾ってくれたり、「ゆっくりで大丈夫ですよ」と声をかけてくれたりと、皆優しかった。
 今でも私は、障害のある長男を抱えているし、まだ小さな次男も手がかかる。両親は幸い元気にしてくれているが、高齢者なので注意は必要だ。そんな私だけれども、支えが必要な人のために、できることだってある。例えば、電車に乗った時、私は座らなくても大丈夫なので、席を譲ることはできる。
 進む少子化の中で、だれもが活き活きと暮らしていける社会にするために私にできることは、支えてもらいながらも、支える方にもなることだ。それは目立つことではなく、むしろ、それが当たり前になる世の中で、社会を構成するただの一人になることだ。これからの社会には、ぜひそうなって欲しいと思う。そのために私は、率先して、支えられながら支える人になりたいと思う。自分には、支えられる立場も見ず知らずの世界ではなく、その経験を生かして、どんなときにも、きっと役に立てることがあると信じていきたい。そして、笑顔でこの社会を見渡していきたいと思う。



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